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2004年07月10日
[アート] 情報小説、あるいはメディアアートとしての「氷塊/平野啓一郎」と12時間の眠り
■鳥肌のたつ読書体験
昨日の夕方に眠って起きたら今朝であった。
12時間も眠っていたのか。
驚いた。
今日は江戸の真実を知る小旅行にでる。
といっても遠出ではない。
江戸時代の人々は背が低かった。
それは何故だろう、という視点での探求となる。
午後には出かけるとしてそれまではいくつかやることがあるな、などと思っていたらあっという間に7時である。
そういえば昨日、鳥肌がたつ経験をした。
平野啓一郎のインタビューを読んでいると「氷塊」という作品の話がでてきた。ページを上下に二分し、同じ時間軸ですすむ二つの視点の物語を書いたというのだ。上半分が少年の視点、下半分で女性のストーリーがすすんでいく話らしい。
図書館とは便利なものでこのような記事をみたらすぐに原本にあたることができる。幸い貸し出し中ではなかったので早速、「氷塊」の収録されている「高瀬川」という作品集を探してきて読み始めた。
そうだ、この本は以前、書店で手にとって「なんてありきたりで安易な手法だろう」とさっさと書棚においた本であった。改めて読むのもなんだな、と思いながらパーっと読み進めることにした。
■結晶感覚とテキストの可能性
5分くらい読むと段々と上下二段のパラレルストーリー展開の「読み」がわかってきた。見開き1ページ毎に上を読み、下を読み、とやっていく。この時の必須条件としては速読でこれを行わなければならない。上段のストーリーの時間が過去になっていく前に下段の時間を必死でよりもどす、という作業を続けていく。10回くらい(つまり20ページ分)これをやると頭が「氷塊」モードに切り替わる。
そうなると不思議なことに絵をみているかのようにストーリーが頭の中で動き出す。ほとんど映画の世界である。
そしてこれがもっとも素晴らしい点なのだが時間が寄ってくる感覚が生じるのだ。
詳しく説明しよう。
最初にもいったように上下でパラレルに進行するストーリーを一つの頭で追いかけるのは面倒だ。これはスタート時点で二つのストーリーに関連性がないためである。ところが少しづつ二者の時間が近づいていく。パラレルにすすんでいた物語がある一点に向かって段々と結晶化していくのである。
この「結晶感」を文字で表現しているということに一番驚いた。
日本文学の特性というか内面の描写が冗長的でいささかうざったいのだが「氷塊」のつくりだす「結晶感」はそんなことはどうでもいいと思わせるスピード感と躍動性がある。
「氷塊」のストーリーはアクションとは無縁だが冒険小説などよりもはるかにスリリングな読書体験を与えてくれる。こればかりは読んだ人にしかわからない感覚であろう。
アクション小説などでは各キャラの視点で同じ時間の別なシーンを描写することがよくあるがあれとは全く異なる読書体験なのである。単純だが上下二段の構成がこうも効果的に機能するとは驚愕である。
時間同士が寄っていく感覚は映画的でありテキストを読む感覚とは異なっていた。
読後感は良質の映画をみた後に感じる包容感と同質であり、満ち足りていた。
正直「読んでいてよかった」と思った。
これも全て「平野啓一郎」という作家の力量のなせる技なのだろう。
久しぶりに「作家、恐るべし」の感を抱いた。
同時にこのような作家が同時代にいるということを幸福に思った。
■メディアアートとしての小説表現
自分がこの作品をこのような「読み」で体験できたのは昨年より研究しているパラレルリアリティ感と大きく関連している。各種実験によるパラレルリアリティの体験を通じたパラレルリアリティ感覚の理解があるとないでは印象が大分違っただろう。僕が驚いたのはそれらの認識なくして作家がその感覚と力量だけでこの表現を完成させたことである。「氷塊」は文学作品という体裁をとっているがこの作品の本質は「情報体験」である。
メディアアートとして捉え直す必要がある。
さらに「高瀬川」に収録されている「追憶」という散文作品がある。この作品も文学作品としてみるのではなく「体験」的に迫ってくる書籍という形態を用いた一種のメディアアートだと感じた。
これらの表現が書籍とテキストでなされたこと。
それが驚きなのである。
あらためてパラレルリアリティ感覚の台頭を感じた。
※追記:インタビューが掲載されていた文学界には茂木健一郎さんの「脳のなかの文学」という論考が収録されている。この論考があまりにも面白かったのでコピーした。図書館で本をコピーしたのは何年ぶりだろう。茂木さんはソニーサイエンスラボでクオリアの研究をされている方である。そして何故か僕の友人のカラオケ仲間なのだそうだ。

高瀬川
平野 啓一郎
投稿者 TKM : 2004年07月10日 07:24
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