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2005年01月07日

戦車とウマと少年とボビーのサイフ

ゆっくりと眠った朝は気持ちがいい。
戦車の夢をみた。

回転する砲台に男はしがみついていた。ぬかるむ地面は雨に濡れているのではない。溶解する地表がうねっているのだ。 50台の戦車型自動車がうねる大地を疾走していく。川へと向かって重機が高速で移動する様を丘の上からみていた。

海のような地面である。50cmの硬地の下には大地の呼吸があった。割れた地表はクレームデュプレに似ていた。 戦車は海と化した大地を進んでいく。

砲台につかまった男はいま何をみているのだろう。
男の視覚に入ってみた。
1mの距離まで近づいた。男の視覚ではない。戦車の視覚だ。この戦車には視覚がある。 男は振り落とされそうになりながらも心の奥底に余裕をもっている。男を振り落とすかどうかは僕が決めるのだろう。 しばらく揺れる地面をみていた。

戦車隊が行進をつづけているころ川のこちら側の草原では馬が草を食んでいた。少年の馬であった。

「チーズを食べたことがあるか」

と少年に尋ねると

「馬も僕もチーズを食べたことはないです」

というので少年とチーズを買いにホームセンターにいくことにした。休日のホームセンターは午前5時にもかかわらず数名の客がいた。 少年にカゴを持たせ、チーズを選ぶ。瓶に入った粉末を固定させた形状のチーズを選んだ。このチーズには蜂蜜がよくあう。 よくみると小さな蜂蜜がセットになっていた。

少年の父親にはビールを買っていってやろうと思った。
二人でレジに並んだ。並ぶのは嫌いだが隣のレジよりも空いているように見えた。

前の客が会計をすませた。
サイフを取り出して支払いをしようとすると

「予約がはいっているのでおまちください」

レジの女性がそういった。50歳くらいのおばさんである。肩くらいまでの長さの髪は歳のわりに綺麗にカットされていた。 この年代の女性のイメージは失敗したパーマネントの髪型という印象があったがそうではなかったので意外だった。

三人でしばらく待つが会計の予約をいれた女性はあらわれない。
10分ほど待った。女性があらわれた。見た目は大きな黒人の女性であった。しかし彼女は同時に日本語を話すおばさんでもあった。 彼女は日本人のおばさんでありながら巨漢な黒人のおばさんでもあった。
彼女の買い物カゴには粒入りピーナツキャンディーの袋が15袋入っていた。

会計をしようとしてレジのマークをみるとカードが使えた。レジのおばさんと入れ替わりでやせたおじさんが会計をしてくれた。 おじさんは紺色のエプロンをしていた。口元の髭は「喫茶店のおじさん」な雰囲気を醸し出していた。

少年とレジを離れるとフランス人のボビーが向こうから歩いてきた。ところでこの店は屋外にある。床はなく足下は地面であり、 草が生えている。棚は普通のホームセンターと同じだ。しかし床と天上はない。店は自然と共生している。

「これからいくのかい?」

ボビーが少年に尋ねた。足下をみると黒いサイフがおちていた。20cmほどの長方形のサイフである。拾い上げて中をひらく。 ファスナーをあけると茶褐色の小銭がはいっていた。

「あれサイフだ。このサイフ誰のですかー」

大きな声で周りの人々にたずねた。

「あー、僕のです。去年なくしたのよー」

ボビーが手をあげてそういった。サイフをボビーにわたすと喜んで駆けていった。
少年と草原に戻ると馬は消えていた。替わりに馬型の木材がおかれていた。背の高い草が風になびいている。

「馬と世界が固定されるのはどうしてかわかるかい?映画の秘密を知っているかどうかが問題なんだ」

背後から声がした。振り返ると男が朗読をしていた。つぶやきといったらいいのだろうか。男はそこに設置されていた。 自律的に存在するのではなくこの世界の構成要素としてそこにあった。男の言葉にはメッセージがあった。 それをくみとるかどうかは少年と僕の意思だ。

男の周囲で風景がほどけていった。
彼は20分前の世界を導こうとしていた。
風景はそのままに時間がまきもどされていった。

戦車隊は時間を行進していた。
縦軸と横軸が入れ替わっていく。
時間と空間が縦軸と横軸におきかえられ、別々のシーンで進んでいく二つの物語がそれぞれのエネルギーを示していた。

男はまだ「映画の秘密について」の朗読を続けている。

投稿者 TKM : 2005年01月07日 11:22

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