2004年09月21日
沖縄Days vol.2 -沖縄の域-
飛行機を降りて空港に向かう通路を歩く。
南国のムワっとした空気が充満している。
暑さというよりも質感をともなった熱気はタイやベトナムとも微妙に異なる。
東京の暑さは街の暑さだが沖縄の暑さは太陽の暑さである。
久しぶりに飛行機に乗ったせいか少しボーっとしているとすたすたとやまけんが歩いていく。そういえば沖縄では出迎えの人がきているハズだったがどこにいるのだろう。見回してみるがそれらしき雰囲気はない。
当たり前である。
まだ到着ロビーの中だった。
電車ではないからゲートの先にいくまでは乗客しかいないのだ。
到着ロビーからでると人がたくさんいる。
沖縄の空港にこんなに人がいるとはおかしい。
トイレにいったら人が並んでいる。
上の階にいっても行列はかわらない。
とやまけんはトイレの行列に並ぶことにしたらしい。
オレは並ぶのが「大嫌い」なのでさらに上の階、出発ロビーにいってみることにした。エスカレータをあがって驚愕した。
人、人、人。
視界の全てが人である。
まるで終電の後の新宿の地下街のように人が地べたに寝ている。
こんなところまできて人混みをみせられるとは思っていなかった。
こんなところで眠ってるくらいならもう一泊して沖縄で楽しんだらいいのに、と僕は思うがそれを許さない「信号理論」がしっかりと機能しているのだろう。
人は信号に従うことに慣れてしまうとそうせずにはいられなくなってしまう。
生死を分ける問題であれ、信号がそれを許さないならやはり人は信号に従うのだろう。
奇妙な風景を一瞬だけ眺めてすかさず下りのエスカレータに乗り換えて下の階に降りる。土産物屋の軒先で眠っている人々。
更に下の階。
到着ロビーで一休みする。
しばらくして今回、旅の案内をしてくれる大学の同期生たちが空港に到着した。
彼らと落ち合う為にもう一度、出発ロビーへ。
人、人、人。
人の波を間をくぐり抜けてタクシー乗り場、バス乗り場の柵を乗り越え、車を待つ。しばらくして白いホンダの車が僕たちの前で停車した。
男性が車から降り、笑顔で手を振る。
「タク~!」
そう言ってやまけんが走り寄る。運転席の男性は黄色のかりゆしをきている。
僕は二人とも初対面である。
「こんにちは!ヨロシクおねがいします」
そう挨拶をして握手を交わす。
出会いの時はいつも緊張する。
話しが好きなので社交的だと思われがちだが自分はそれほど積極的に人と交わるタイプではない。出会いは必然と思っているし、誰とでも仲良くなるというわけでもない。
最低限の礼儀だけは守るようにしている。
挨拶をするとかお礼を言うとか話を聞くというあたりまえのことなのだがそれだっていい加減にやればされた方はいい気持ちはしない。
人の気持ちを害していいことなどないのだ。
車の後部座席にはチャイルドシートがおいてあった。
「チャイルドシート外すの忘れてたんだって。ちょっとせまいけどゴメンね」
タクがそういう。タクはやまけんの大学時代の同級生だ。石井威望研究会で一緒だったそうである。システムインテグレーション関連の仕事をしている、としかきいていなかったのだが沖縄ツアーについてのこれまでのメールのやりとりからきめ細やかな気遣いを感じていた。
車に乗り込み、さっそく行動開始。
「コイツ、キッペイ。高校の頃からの親友。今回の旅のセッティングをやってくれたんだよ。」
タクが運転している男性を紹介してくれた。
その時、彼が今回の旅の具体的なプランを全てつくってくれたのだと初めて知る。
タクとキッペイの二人は沖縄生まれ、沖縄育ちの沖縄人である。
沖縄の訛りなのだろうか彼らの話す言葉には角がなく、懐かしさを覚えた。
しばらくなんとはなく話をする。
昨夜まで沖縄では台風が猛威をふるっていて飛行機が欠航し、それで空港が大変だったことや。大学時代にどんなだったかとか、キッペイは何をしているのかとか。
まずは昼飯にしようということになり車は首里の方に向かう。
しかし当初予定されていた「首里そば」は観光向けに味が特殊になっているとのこと。
もっと地元な沖縄そばらしいそばにしてはどうだろうかとキッペイから提案があった。二つ返事で
「おー、そいつは絶対そっちにいきたい。いきましょう」
「じゃあ、そっちにしようね。」
と車は一路、沖縄そば屋に向かう。途中、見知った風景に出会う。先回、沖縄にきたときに返しにいったレンタカー屋をみつける。あの時は最終日はひとりだったので閃くままに車を運転し、食事し、一人旅を満喫した。
僕にとっての沖縄の記憶はあの日に集約される。
そんなことを思ながら流れる風景をみていた。
背の高い草が風になびいていた。
空はまだ雲で陰っていた。
キッペイが道路脇の様々な建物について解説してくれる。彼は沖縄県の職員で土木関係の仕事をしていた。そのため様々な公共事業に精通していて裏話をきかせてくれる。
しばらくして「淡すい」という店についた。
(店名から岡田につれていってもらった代々木の「淡水研究所」という飲み屋のイメージしてしまった)
どうみても掘っ立て小屋のような店だ。解説によればこの店は建築法に違反しているらしく建築物の検査をする立場にあったキッペイは立場上、店の主と激論になったこともあったそうだ。
そんな話をきいていたのでどれほど恐い店だろうと思って入ったら小ぎれいで感じがよい。注文しようとメニューをみると6品ほどしかない。ノーマルなそばにしようと思ったのだが
「ソーキは沖縄の人にとってはごちそうだからね」
というキッペイの言葉に動かされソーキそばに変更。沖縄ではそばのことを「スバ」と呼ぶ。タクがそのあたりの解説をしてくれたのだが詳細はしっかりと失念。簡単にいうと江戸っ子が「ひ」を「し」と発音するのと同じようなものとのことだった。
そばが運ばれてきた。
さっそくやまけんは撮影に余念がない。
今回の旅で僕はビデオで撮影をしてみた。
食い倒れは動画の方が面白いと思ったからだ。
撮影をしてみて早速気がついたが撮影対象であるやまけんは「食べる」に集中するまえに必ずパシャパシャと撮影するので動画だとどうもタイミングが悪い。感想をいって欲しいのだがカメラをもってどんぶりにがぶりよりという絵になってしまう。こうなると動画作品としては面白くないものになる。
この時点で方向性を変えて僕がレポートするようにすればよかったのだがそれはいまだからわかることであり、次回はどこを改善すればいいかがわかったので良しとしよう。
運ばれてきたソバはシンプルだが好感の持てる外観をしていた。ぼくの中では沖縄ソバはラーメンのようなイメージがあった。これまでもそう捉えていたのでカンが甘いというか味にキレがないという印象があった。
が話の流れでキッペイが
「これはねソバなんだよ。独特でしょ」
といったのをきいたときに認識が変わった。そうかこれは「蕎麦」か。そう思って食べると沖縄ソバが優しい味に感じられ美味しかった。
料理の味そのものは食事を味わう時の3割程度の影響力という話をどこかで読んだがその通りだと思った。静かな光がさしこむ店でゆげのたつそばを食べていると土地の空気が流れ込んでくるようで段々と気持ちが穏やかになっていくのを感じた。
店のおばさんもみためはぶっきらぼうなのだが言葉は優しい。
このファーストコンタクトに沖縄の域が隠されていたのだがこの時はまだそれに気づくことはなかった。
投稿者 TKM : 03:04 | コメント (3) | トラックバック
2004年09月16日
沖縄Days vol.1 -朝の空-
終わらない夜と眠れない朝

出発の日の朝はいつものように徹夜だった。
仕事を終えたのが午前4時。
那覇に向かうANAの飛行機の出発時刻は午前8時。
やまけんとの待ち合わせは午前7時に羽田。
時間に間に合うようにするには午前6時15分に勝ちどき駅発の大江戸線に乗らなければならない。
旅の準備をしていると時刻は5時過ぎ。
あと1時間で出立しなければならない。バタバタと荷物をリュックに詰める。いつも迷うのはどの本を持っていくかなのだが今回は何故か「意識の本質」(井筒俊彦)。今持って何故その本を手に取ったのかは不明だ。やまけんに貸そうと思って「ガンジス河でバタフライ」(たかのてるこ)も詰め込む。それからCD。レンタカーを使う日が一日ある。レンタカーにはCDが欠かせない。これも考えてみれば不思議なことだがここで選んだ一枚が後に強烈なインパクトをもたらすこととなった。
ふと外にでてみたくなった。
こういう感覚は何かを伝えていることが多い。
外に出て我が目を疑った。
美しいピンクとブルーが東の空をつつんでいた。
空の向こうの方がみたくなって廊下にでて窓をあけたが地平線はビルの彼方に隠れていた。

しばらく空をみていた。聖路加の前からだったら見えるかもしれないと思って一階に降りて自転車で外に出た。しかしその頃にはすでに空は明るくなりはじめていた。
空の向こうはみえなかったけれど夜が朝に変わるその一瞬に遭遇できた幸運に感謝した。
部屋にもどって作業の続きをはじめた。
向こうではPCが使えないので仕事関連のメール処理を全部やっておく。するともう時間である。ガスの元栓を閉めてエアコンの電源を切ってドアを出る。
大江戸線はいつものようにすいている。
浜松町からモノレールに乗り換える。
本当は浅草線でそのままいけるのだけれど野知さんが「かがやくん、なんか空港に向かう時は地上から攻めたいよね」と言っていたのを思い出しモノレールで空港に向かうことにする。確かに早朝の便を使う時は空が見えた方が気持ちがいい。モノレールは適度に混んでいる。旅行客が半分。残り半分は仕事の人だろうか。しかめっ面の人が多い。二十代後半の白いシャツにネクタイをした男性がバーに腰掛けクッキーを食べている。向かいの席に座っているサラリーマン風の男性は外を見つめている。
車中に声はない。
空港についてチェックインカウンターに向かう。
やまけんは初沖縄ということなので窓際の席にした。
海が見えるといいのだが昨夜まで向こうは台風で大変だったらしい。
宇宙飛行士かパイロット
やまけんと合流し搭乗手続きを済ませ機内へ。飛行機は満席の模様である。
やまけんのいでたちはいつもの黒Tである。後にこの黒Tに秘められた秘密を知ることになるのだがそれはだいぶ後の話だ。飛行機に乗るたびにどうしてこんなに座席がギュウギュウとしているのだろうと思う。
東海道線の4人がけの席もそうだ。あと3cm広げたらどれほど快適になるだろう。こうした小さな不快の集積が都市・国レベルで巨大なストレスの層をつくりあげているのではないだろうか。
さっそくやまけんに「ガンジス河でバタフライ」をわたす。
「こういう人も好きだな~。」
「この人。面白いんだよ。『銀座OL世界をゆく』というTV番組にもなってて何せ勢いがある。文章がやまけんに似てる気がするんで貸そうと思ってたんだ。どっかであったりするかもしれないし。なんか合うんじゃないかな」
気に入ってもらえたようだ。
「こうしたパワフルな人と直接会うと陽と陽がぶつかりあって反発することが多いんだよなあ」
とやまけん。なるほど何となくわかる。地と図の関係である。陽が陽として成立するには陰という地が必要になる。やまけんの大食いも我々ノーマルなイブクロ人との対比によってきらびやかうきたつ。
ジェットエンジンがキーンという音をたて飛行機が加速しはじめる。離陸である。僕はこの時間が好きだ。おそらく加速感が好きなのだろう。
子供の頃から空が好きで。
ずっと宇宙飛行士になりたかった。
「虫歯があるとなれないんだよ」
小学校の頃にそう教えられた。
虫歯がなかったら宇宙飛行士を目指していただろうか。
子供の頃に母に何度も聞かされた話がある。
母の教え子に自衛隊のエースパイロットになった人がいたそうだ。
戦闘機のコクピットは前後に二人乗りになっていて両方の席で操縦ができる。彼が遊びにきていうにはパイロット候補の試験ではいきなりなんの予備知識もなくファントムの座席に乗せられ高度数万メートルの地点で操縦桿を渡されるのだそうだ。
そこでパニックに陥ることなくどうにか機体を立て直すことができた者が候補生として戦闘機乗りになる。過酷な試験だが国防の最前線ではそうした感性的な適正の有無が重要なのだろう。
しばらくバカ話をして本を読んでいたら眠くなってきた。
二人ともぐっすりと眠る。
ガタっと揺れがきて起きると「機はまもなく着陸いたします」のアナウンスが流れていた。一時間以上眠っていたようだ。窓の外は雲に覆われており沖縄の海はまだ見えない。
投稿者 TKM : 01:38 | コメント (2) | トラックバック
2004年09月13日
沖縄Days -終わらない夏休みの記憶- vol.0
たったの六日間だがこれだけ長い間キーボードに向かうこともなく文章を書くこともなく過ごしたのは2年前のベトナム・カンボジア以降はじめてではないだろうか。そう思う。
沖縄での日々は通常の旅行というよりも修学旅行か宿泊訓練のような日々であった。
毎日何かしらのイベントがあって、それらはとりたてて特別な体験ではないのだけれど一日目はこうして二日目はこうだったな、と思いかえしていくと嬉しさと切なさが混じり合った複雑な気持ちになる。
旅と夏は似ていてどちらも切なくはかない。
その時間を永遠につなぎとめておきたいのにそれができない。
夏の夕方に暮れていく空をみていると今日という一日はもうかえってはこないことを実感する。
昼と夜が交差するその時間が好きだ。
それは嬉しさとも違うし綺麗という感覚とも違う。
いいようのない切ない気持ちがこみ上げ、記憶が蘇り未来や今がたたみ込まれて一気におしよせてくる。誰かにそれを伝えたいと思うのだけれど、その方法がわからなくて、左胸のあたりが苦しくなる。
そして自分が生きていることを実感するのだ。
以前はよく「終わらない夏休み」について考えていた。
夏の夕暮れが永遠につづくならば人の世界は変わっていくのだろうか。
それとも慣れていってしまうのだろうか。
++++++
帰りの飛行機で何年かぶりに吉本ばななの小説を読んだ。
彼女が南米を旅行しインスパイヤされた経験をベースにした短編集である。
てっきりエッセイだと思っていたので失敗したと思ったのだが我慢して読み進めると僕が夏の夕暮れに感じた何かと同じ「気配」についてかかれたページがあった。何度か読み返してノートに書き写した。
こんな風に電車や飛行機の中で集中したのは受験生の頃以来だ。
作品がどうこうということではなく集中していることが面白く羽田についてからもずっとペンを走らせていた。
※次回から旅についてのエントリーをアップしていきます。やまけんのページで旅の行程にそって食べ物について扱っているので同じ時間に僕が何を感じていたのか。もうひとつの旅の記録を書いていきたいと思います。